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刀(森岡毅氏)のジャングリア沖縄は赤字?マーケティング戦略の成否を検証

沖縄本島北部のやんばるの森に広がる大型テーマパークを、夕暮れの空の下で遠くから見渡す風景 ジャングリア沖縄
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ジャングリア沖縄の親会社は、開業1年目の2026年6月期決算で約173億円の最終赤字になりました。来場者は約100万人でしたが、当初想定の150万人を大きく下回り、運営子会社の赤字と子会社株の減損が重なったことが主な理由です。

9月25日の株主総会では、刀の森岡毅氏が出席して謝罪しました。そのうえで、来場者目標と損益分岐点を引き下げた再建計画が示されています。

この記事では、報道で分かっている事実を整理したうえで、「刀のマーケティング戦略はどこで機能し、どこでずれたのか」を筆者の視点で検証します。

ジャングリア沖縄の親会社173億円赤字とは?何があったのか

ジャングリア沖縄を運営する会社の親会社が、開業後はじめての通期決算で約173億円の最終赤字を計上しました。

親会社は、名護市に本社を置くジャパンエンターテイメントホールディングス(JEHD)です。決算の内容は2026年9月23〜24日にかけて、NHKや沖縄タイムス、日本経済新聞などが相次いで報じました。

パークを運営する子会社のジャパンエンターテイメント単体でも、約89億円の最終赤字です。開業前の2025年6月期にも約51億円の赤字を出していました。

報道によると、親会社の赤字が子会社より大きくなったのは、保有している子会社の株式を大きく減損したためです。

減損とは、「この資産は見込んでいたほど稼げない」と判断したときに、帳簿上の価値を引き下げる会計処理のことです。減損額そのものの内訳は、筆者が確認した範囲では報道に出ていません。

それでも、この処理が持つ意味は大きいと考えます。1年目の出費がかさんだだけでなく、会社自身が「今後の稼ぐ力」の見通しを引き下げたことを示しているからです。

日本経済新聞によると、政府系の沖縄振興開発金融公庫が30億円のつなぎ融資を行うことも明らかになりました。

主な数字を表にまとめます。

項目数字
JEHDの最終赤字(2026年6月期)約173億円
運営会社の最終赤字(2026年6月期)約89億円
運営会社の最終赤字(2025年6月期・開業前)約51億円
総事業費約700億円
民間金融機関からの融資13機関から366億円
出資金約350億円
当初の来場者想定150万人
初年度の来場者数(スパ含む)約100万人
初年度の売上高100億円超の見通し
沖縄公庫のつなぎ融資30億円

株主総会で何が示された?森岡毅氏の謝罪と再建計画

9月25日の定時株主総会では、森岡氏が想定を下回った実績について謝罪し、目標を引き下げた再建計画を示しました。

琉球新報や沖縄タイムスによると、総会は同日の昼過ぎに那覇市内で開かれました。追加融資や新たな出資を募って経営を立て直す方針が説明されています。

再建計画では、来場者数の目標と損益分岐点がそれぞれ引き下げられたと報じられています。ただし、会場で配られた説明資料は情報流出を防ぐために回収されたとされ、具体的な新しい数字は明らかになっていません。

森岡氏は総会後、報道陣の待つ出入り口には姿を見せず、別の出口から会場を後にしたと伝えられています。

筆者としては、目標を下げたこと自体より、その数字が公表されていないことが気になります。地域の期待を背負ったパークだからこそ、再建の目安が外から見えるかどうかは、信頼の回復に直結すると考えるからです。


ジャングリア沖縄はなぜ赤字に?来場者100万人の意味

赤字の主な原因は、約700億円の初期投資に対して、来場者が想定の150万人に届かなかったことです。

SmartFLASHは、開業時の損益分岐点を来場者100万人、当初目標を150万人と報じていました。実績の約100万人は、この分岐点とほぼ同じ水準です。

ここで一つ、注意したい点があります。

損益分岐点は、ふつう減価償却費(設備の購入費を何年かに分けて費用にしたもの)も含めて計算します。そう考えると、「分岐点の100万人に届いたのに89億円の赤字」という結果は、数字どうしがうまく合いません。

報道では、この100万人がどの利益段階の分岐点なのかは説明されていません。筆者の推測ですが、減価償却前の営業段階での目安だった可能性があります。また、「スパを含めて約100万人」という数え方の違いも影響しているかもしれません。

いずれにしても、赤字を膨らませた要因として、報道では次の点が挙げられています。

  • 減価償却費:約700億円の設備にかかる費用が毎年のしかかる
  • 開業前後のプロモーション費用:大規模な宣伝にかけた費用
  • 集客の不足:想定の150万人を大きく下回った
  • 子会社株の減損:親会社の赤字額を大きく押し上げた

総会で損益分岐点そのものが引き下げられたことは、裏を返せば、当初の計画が今の集客力に見合っていなかったと経営陣が認めたことを意味すると、私は受け止めています。

※画像はAIによるイメージ

刀のマーケティング戦略は失敗だった?機能した点とずれた点

筆者の見立てでは、刀の戦略は「人を呼ぶ」ことには一定の成果を出しましたが、「期待に応え続ける体験」と「投資の回収」の設計でずれが生じました。

刀を率いる森岡毅氏は、USJをV字回復に導いたマーケターです。2017年に刀を創業し、需要をデータで予測する「確率思考」で知られてきました。

機能した点:無名の新パークを全国区にした

ジャングリア沖縄は、那覇から車で長い時間がかかる本島北部にあります。そこへ開業1年で約100万人を呼んだことは、ブランドがゼロの状態からの集客としては小さくない成果です。

開業前から大規模な宣伝で話題を作り、「やんばるの大自然で非日常を味わう」という分かりやすい価値を打ち出したことは、刀らしい手法だったと言えます。

ずれた点①:期待値を上げすぎた

一方で、開業直後にはSNSで待ち時間や価格、体験の内容について厳しい声が相次いだと報じられています。

大規模な宣伝で期待を高めるほど、実際の体験とのわずかな差も「期待外れ」として広がりやすくなります。プロモーションの強さが、口コミの面ではかえって逆風になった面があったと私は考えます。

ずれた点②:USJとは前提がまったく違った

USJ再建のときは、すでに建物も、世界的な映画ブランドも、関西という大きな人口圏もありました。森岡氏の仕事は、そこに「行く理由」を足していくことでした。

ジャングリア沖縄では、施設もブランドも交通の流れも、すべてゼロから作る必要がありました。需要を生み出すマーケティングと、700億円を回収できる事業を組み立てることは、似ているようで別の仕事なのだと思います。

ずれた点③:リピーターを生む仕組みが弱かった

観光客が中心のパークは、同じ人が何度も訪れにくいという弱点があります。県民の再訪をどう増やすかは、開業当初から課題になりやすいところです。

価格の高い優先パスなどで客単価を上げる工夫は、他の大型パークでも広がっており理にかなっています。ただ、それだけでは来場者数そのものを押し上げることは難しいでしょう。


メガバンクは融資を見送った?資金集めの経緯

約700億円の事業費は、大手銀行ではなく、地方の金融機関と地元企業、証券会社の後ろ盾で集められました。

SmartFLASHによると、森岡氏には巨大テーマパークをゼロから立ち上げた経験がなく、金融機関の一部には計画を不安視する声がありました。その結果、いわゆるメガバンク3行は融資を見送ったと報じられています。

融資団の主幹事となった商工中金の助言で国家戦略特区の認定を受け、13の民間金融機関から366億円の融資がまとまりました。

出資は、刀のほか、オリオンビールやリウボウなど沖縄の地元企業から、合わせて約350億円が集まっています。

経済ジャーナリストの松崎隆司氏は、刀の出資分は大和証券グループ本社が刀に出資した資金などでまかなわれていると指摘します。そのうえで「今後のカギを握るのは大和の判断」との見方を示しました。

個人的には、大手銀行が慎重だった計画を地元企業が支えた点に、沖縄北部の観光を変えたいという地域側の強い期待を感じます。その期待の大きさが、今回の赤字の重さにもつながっていると言えそうです。


刀をめぐる相次ぐ問題とは?イマーシブ・フォート東京の閉業など

今回の赤字の前から、刀の経営をめぐってはいくつかの問題が報じられていました。

最も大きいのは、刀がお台場で運営していた没入型テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が、開業から約2年の2026年2月末で営業を終えたことです。森岡氏は「大反省が必要」とコメントしたと伝えられています。

週刊文春は、刀から主力メンバーが相次いで退社したことや、2026年3月末に財務責任者(CFO)が退任したことも報じました。

こうした週刊誌報道には関係者の証言に基づくものも多く、すべてが確定した事実とは限りません。ただ、イマーシブ・フォート東京の閉業とJEHDの赤字は、公に確認できる出来事です。

筆者が気になるのは、2つのパークの苦戦と人材の流出が同じ時期に重なったことです。テーマパークは開業後の「育てる時期」にこそ、経験のある人の力が欠かせないからです。

※画像はAIによるイメージ

地域経済への効果は?494億円の波及効果という別の顔

会社としては大きな赤字でも、沖縄県内には大きな経済効果が生まれています。

りゅうぎん総合研究所の試算では、開業から1年間の県内への経済波及効果は494億円でした。同研究所の別の試算では、2025年のプロ野球春季キャンプが約224億円、クルーズ船観光が約161億円です。

広告業界メディアのアドタイは、ジャングリア沖縄がもともと、北部への観光客の呼び込みや宿泊需要の創出、地元の人材育成といった役割を担っていた点に注目しています。

沖縄観光では、那覇など南部に泊まり、北部は日帰りで訪れる旅行者が多いのが実情でした。ジャングリア沖縄は、その流れを変える役割を期待されていたのです。

ここで見えてくるのが、「会社の赤字」と「地域の黒字」がずれているという構造です。494億円の多くは、ホテルや飲食店、レンタカーなど、パークの外に落ちたお金で、運営会社の決算書には入ってきません。


今後ジャングリア沖縄はどうなる?専門家の見方と前例

専門家の見方は「すぐに閉園することはない」という点で共通していますが、債務の整理が必要かどうかで意見が分かれています。

松崎隆司氏は、赤字の多くは巨額の先行投資によるもので、ただちに債務超過(借金が資産を上回る状態)に陥っているわけではないと説明しています。そのため「すぐになくなることはない」との見方です。

一方、日本遊園地学会会長の塩地優氏は沖縄タイムスへのコメントで、開業初年度に売上に匹敵する規模の赤字を出したことから、債務の整理は避けられないとの見方を示しました。

報道からは、この「売上に匹敵する赤字」がどの数字を指すのか明確には読み取れません。ただ、運営会社単体の赤字約89億円と売上100億円超を並べると、ほぼ同じ規模になります。

塩地氏は、裁判所を通さない私的整理として事業再生ADRが想定されると述べています。営業を続けながら、銀行団やスポンサーの合意のもとで借金の返し方を組み直す手続きで、パークを閉じるためのものではありません。

過去の前例と比べると

開業後に苦しんだテーマパークには、具体的な前例があります。

  • ハウステンボス(長崎):巨額の建設費が重荷となり、2003年に会社更生法を申請しました。その後、2010年にエイチ・アイ・エスの支援で再建が始まり、イベントの強化などで黒字化を果たしています
  • レゴランド・ジャパン(名古屋):2017年の開業直後、価格や暑さ対策などに厳しい声が集まりました。その後、ホテルの併設や施設の拡充を重ね、運営を続けています

2つの例に共通するのは、開業時の計画にこだわらず、スポンサーや運営の形を見直して「身の丈」に合わせたことだと私は考えます。


【考察】ジャングリア沖縄の再建で問われること(筆者の私見)

ここからは、筆者としての考えをお伝えします。

まず、今回の結果を「マーケティングの失敗」とひとことで片づけるのは早いと考えます。北部に年間約100万人を呼び、県内に494億円の波及効果を生んだ事実は、決して小さくありません。

問題は、その集客力に対して、700億円の投資と150万人という想定が大きすぎたことだと思います。総会で目標と損益分岐点が引き下げられたのは、その現実を認めた一歩と言えるでしょう。

そのうえで再建のカギは、先ほどの「会社の赤字と地域の黒字のずれ」をどう埋めるかにあると私は見ています。

たとえば、北部のホテルと組んだ宿泊セットや、県民向けの年間パスの充実など、パークの外で生まれた価値を少しずつパークに戻す仕組みです。沖縄公庫という政府系金融機関が支援に入ったことも、地域全体で支える形に近づく兆しと受け止めることができます。

今後は、次の3点に注目しています。

  • 資金面:追加融資や新たな出資がどこから、どの規模で集まるか
  • 経営体制:刀の関わり方や経営責任のとり方がどう変わるか
  • パークの中身:リピーターを増やすための体験や価格の見直しがあるか

ハウステンボスが再建まで長い時間をかけたように、ジャングリア沖縄にも時間は必要でしょう。やんばるの森という舞台は、ほかのどこにも真似のできない強みです。

個人的には、今回の赤字が終わりの合図ではなく、身の丈に合った形で長く愛されるパークへ生まれ変わる通過点になってほしいと願っています。

※画像はAIによるイメージ

これからジャングリア沖縄へ行く方へ

現時点で、閉園や休園の発表はありません。

ただし再建計画にあわせて、チケット料金や営業日、営業時間、アトラクションの内容が変わる可能性はあります。お出かけ前には、公式サイトで最新情報をご確認ください。

大切な旅行の場合は、キャンセル規定もあわせて確かめておくと安心です。


まとめ

ジャングリア沖縄の親会社JEHDは、2026年6月期に約173億円の最終赤字を計上しました。運営子会社の約89億円の赤字に、子会社株の減損が重なった結果です。

来場者は約100万人で、想定の150万人を大きく下回りました。9月25日の株主総会では森岡毅氏が謝罪し、目標と損益分岐点を引き下げた再建計画が示されています。

刀の戦略は集客では一定の成果を上げた一方、期待値の管理と投資回収の設計にずれがありました。地域には494億円の波及効果が生まれており、そのずれをどう埋めるかが再建の焦点になりそうです。


よくある質問

株主総会で具体的な新しい目標は発表されましたか?

来場者目標と損益分岐点を引き下げた再建計画が示されたと報じられていますが、説明資料は回収されたとされ、具体的な数字は公表されていません。

沖縄公庫の30億円のつなぎ融資とは何ですか?

政府系の沖縄振興開発金融公庫が、本格的な資金調達がまとまるまでの間の資金として貸し出すものです。当面の運営資金を支える役割があると考えられます。

事業再生ADRになると、パークは営業できなくなりますか?

事業再生ADRは、営業を続けながら債権者と借金の返し方を話し合う私的整理の手続きです。パークを閉じるための手続きではありません。ただし、現時点でADRの申請が決まったという報道はありません。

(文・夢咲 未来)